2トン以上 メタミドホス
中国製冷凍ギョーザから有機リン系殺虫剤メタミドホスが発見されて間もなく1カ月が経過する。日中捜査当局の言い分は真っ向から対立したままで、食品の多くを中国からの輸入に依存する日本の消費者の不安が増幅されてゆく。中国の「食の現場」はどうなっているのか。
トウモロコシ畑がどこまでも広がる。北京から数百キロ、中国河北省のある農村。間口2メートルほどの小さな商店で、初老の男性店主は取り出した緑色の小瓶を台の上に載せた。メタミドホスだった。
店主は「去年3月ごろかな。5、6キロ離れた町中心部の農薬卸商から20本仕入れた」と証言し、続けた。「政府の通達は知っている。でも仕入れ先の卸商は売りさばかなければ、損するだろう。こっちだって……」
製造地は偶然にも問題のギョーザを作った「天洋食品」と同じ同省石家荘だった。中国政府は07年にメタミドホスの使用を禁止。今年1月には生産、販売、所持も厳しく取り締まるとの通達を出した。だが、殺虫効果の高いメタミドホスの人気は高い。農薬販売には当局の許可が必要だが、近くの男性によると、集落の商店で無許可販売され、田畑で使用される例が多いという。
禁止農薬の流通ルートはさらに存在する。
「2トン以上なら売ってもいい。ただし領収書には別の商品名を書く。運送途中でトラブルがあっても、こちらは責任を負えない」。江蘇省の化学薬品工場の男性職員は毎日新聞の電話取材に答えた。
工場は今もインターネットのホームページ上で堂々とメタミドホスの広告を出す。「海外向けには今も生産している」と説明する別の化学工場もある。
中国公安省の余新民・刑事偵査局副局長は28日の記者会見で「メタミドホスが中国で混入した可能性は極めて低い」と言い切った。当局が神経をとがらせるのは、北京五輪を目前に控えた今、「中国の食の安全」が対中非難に直結するおそれがあるからだ。
◇富裕層は「安全」享受
北京市は野菜や養豚などの5農場を「五輪専用農場」に指定し、8月の五輪開催時に選手団・役員に提供する。その一つ、北京市北部に位置する「小湯山特別野菜生産基地」を訪ねた。
林源総経理(社長)は「温室(約1600平方メートル)1カ所にビデオカメラを12台ずつ設置し作業を監視している。農薬を使わないのはもちろん、生産、運送、販売のすべての段階で製造記録を確認できるID番号も導入した」と強調した。だが、安全を享受できるのは限られた人だけだ。
有機栽培や無農薬と表示された野菜や果物が並ぶ上海中心部の高級デパート。市価の2、3倍もする野菜をカゴいっぱいに買っていくのは、中国の富裕層や外国人が多い。中国で拡大する「格差」。それは「食の安全」にも映し出される。【大塚卓也、大谷麻由美】
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