お母さんタニシ 遠藤実先生
・・・あるとき、まだ水の冷たい田の片隅にひときわ大きなタニシを見つけた。指が触れると、硬いものに叩きつけなければ割れないタニシの殻が最中(もなか)のように粉々に壊れてしまった。おかしいなと思ってのぞき込んだら、中に米粒のような赤ちゃんタニシがびっしりと詰まっていた。タニシの生態を知っていたわけではないが。そのとき「母さんタニシだ」と思った。自分の身を子供の餌にして育て、固い殻がボロボロになってもまだ子供を守っている姿を見たのだった。もしかしたらおれの母ちゃんは、この母さんタニシみたいなもんじゃないのか。子供のために何もかも犠牲にして・・・。途端に母親に投げつけた言葉が悔やまれた。「母ちゃん」とつぶやいたら。胸の辺りが甘酸っぱくなった。
これは私の履歴書を読まない方には解らない話なんで、簡単に説明すると、新潟の掘っ立小屋(地べたにむしろを引いて布団で寝たそうな)で極貧生活を送った幼少時代、一家5人を支えるために身を粉にして必死で働く氏の母親が、授業参観に来た時、こざっぱりしたよその母親に比べて、着古した野良着姿の母親が恥ずかしく、学校から帰ると「もう学校に来るのは止めてくれ」と言うと、母親は「そうかい」と小さくつぶやくだけでうつむいたそうな。
- そんな当時、空腹を少しでも癒すために泥田でタニシを捕るのが子供達の仕事だったそうで、醤油で煮て殻の中身をほじくりだすと立派なおかずになったそうな。
- これは農家の方ならお分かりだと思うが、タニシは踏ん潰してもなかなか割れずに頑丈で、実際うちの部落でもそういう食べ方をして、田んぼのザザエのような味わいが有り、私も小さい頃、そうやって食べた記憶がある。ただしそれは遠い昔で、今はタニシは小さいのがちょっと生息するだけで、食べる人など居ない。
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