肉まんカレー (ジンギスカン)
1月21日
「びっくりするような性能は必要ない。むしろ、自分でも思いついたかもしれない、と感じさせる方が大切です」。以前にマーケティングの専門家から、ヒット商品についてこんな話を聞いた。101歳の大往生を遂げた柴田トヨさんの詩にも、同じことがいえるだろう。
▼90歳をすぎてから、小紙「朝の詩」に投稿を始めた作品には、難しい言葉はひとつも使われていない。題材も、亡くなった母親や息子、お嫁さんのほか、 ポットや電話、扇風機など身近な情景が目立つ。私にも書けるかもしれない。そう思って、詩作を始めた人も少なくないはずだ。
▼もちろん、 トヨさんの詩は、トヨさんにしか書けない。「時は流れない、それは積み重なる」。サントリーの名作コピーのいう通りだ。明治、大正、昭和、平成の1世紀、 空襲やイジメ、うらぎり、さびしさから「死のうと思ったこともあった」という。そんな人生が積み重なって、初めて生まれた。
▼もうひとつ、処女詩集『くじけないで』が150万部を突破するベストセラーになった理由がある。トヨさんの詩に励まされた人の多くが、友人にも、感動のおすそ分けをしようと、余分に何冊も買い込んだ。小欄の母親もその一人だった。
▼東日本大震災の被災者を励ましたり、振り込め詐欺犯に呼びかけたり、最近のトヨさんのまなざしは、社会の不条理にも向けられている。インフルエンザが流行する今の季節に書かれたであろう「流行」という作品もそのひとつだ。戦争やいじめの蔓延(まんえん)を嘆いていう。
▼「やさしさの/インフルエンザ/流行しないかしら」。願いもむなしく、惨劇が起きた北アフリカの砂漠からは、「厳しい情報」が届いている。
| 固定リンク
最近のコメント